◎はじめに
アニメ・漫画・ゲームを規制しようと主張する人達は、しばしば「子供達を守るために」と口にします。しかし、アニメ・漫画・ゲームを規制することが、本当に子供達を守ることにつながるのでしょうか?

イジメ・不登校・家族との不和。学校に馴染めない、友達ができない、劣悪な家庭環境。それでも、周囲の大人たちは助けてくれない。そんな地獄に直面せざるを得なかった時、アニメ・漫画・ゲームに救われた経験を持つ人は意外なほどに多いのです。 

今も日本のどこかに、アニメ・漫画・ゲームに救われて、どうにか生き延びている子供達が、無視できない数存在しているはずです。アニメ・漫画・ゲームが規制されたら、そんな子供達はどうなるのでしょうか?

ここから先は、子供の頃にアニメ・漫画・ゲームに救われた経験の持つ人達の事例集になります。それらを全て読んだ後、アニメ・漫画・ゲームを規制することが本当に子供達を守ることになるのか、今一度考えていただきたいと思います。



◎ 直木賞作家、辻村深月さんの事例
 《いじめられている君へ》辻村深月さん - 朝日新聞デジタル
http://t.asahi.com/7d27

 記事によると、直木賞作家の辻村深月さんは小中学校の頃、友だちと付き合うのが苦手で、班分けをするときに自分だけ余ってしまう、ということもあったようです。そんな辻村さんにとっての救いになってくれたのが、アニメ・ゲーム・ライトノベルでした。

そんな私を救ってくれたのはフィクションの世界だった。当時の自分を振り返ってみて、そう悪い少女時代でもなかったと思うのは、ゲームやアニメ、ライトノベルにのめり込み、それらの世界を、教室の現実と並行して楽しんでいたからだと思う』(赤字部分は記事より引用) 



◎タレント、中川翔子さんの事例 
 《いじめられている君へ》中川翔子さん - 朝日新聞デジタル
http://t.asahi.com/7n8x

 オタク文化に造詣が深いことでも知られるタレントの中川翔子さん。中川さんは、中学生の頃、無視や陰口などの虐めにあって、ずっと「死にたい」と思っていたそうです。そんな中川さんにとっての救いになってくれたのは、趣味の世界でした。

私は趣味(しゅみ)の世界に救われた。いくら「オタク」って言われても、絵を描いたり、漫画(まんが)を読んだり、ゲームをしたりするのが好き。今はインターネットで仲間を作ることができる。学校の外にすてきな出会いがたくさん待ってるんだから、何か一つでも、楽しいことを見つけてほしい』 (赤字部分は記事より引用)

アニメ・漫画・ゲームは、子供達にとってコミュニケーションのためのツールでもあります。アニメ・漫画・ゲームを切り口に学校の外で新しい人間関係を作れば、イジメを受けている子供達にとってそこが貴重な逃げ場になってくれることもあるのです。(参考:英語が話せずに孤立していた海外在住の子供時代に、ゲーム機を持っていたことがキッカケで沢山の友達ができ、自然と英語も話せるようになった事例



◎フリーライター、廣田恵介さんの事例
 廣田さんは、参議院法務委員会での児童ポルノ法の質疑でも取り上げられた『児童ポルノではなく【児童性虐待記録物】と呼んでください。』署名の発起人です。

そんな廣田さんですが、子供の頃は大変だったようです。廣田さんの許可をいただきましたので、廣田さんのブログ記事の一部を転載させていただきます。

この映画のジャック・ニコルソンのように「家族」という単位に馴染めなかったんだよね、ようするに。嫁姑の仲も悪かったし、父親は夜中に怒鳴りだすし。犬を飼ったら飼ったで、「しつけに失敗したから殺す」「俺のカネで買った犬だから、文句は言わせない」とかさ。声を出して泣いたよね、その夜は。実際には犬は殺されなかったし、僕が殴られたり蹴られたりしたことは少なかったんだけど、殺気があったんだよ。家の中に。

もっと酷い環境で育った人もいるだろう。家庭だけでなく、学校が嫌だった人もいるはず。そういうとき、テレビでアニメを放送してくれたおかげで、何とか乗り切れた。『ボトムズ』を見ながら、キリコの孤独癖に、友達のできない自分を重ねてみたりした。「教室でひとりで過ごしていても、おかしくはないんだ」って。同調圧力を強いるだけの教室になんか、多様な生き方はなかったですよ。アニメの中にあったんだよ。セル画の質感には小さい頃から親しんでいたから、極端にいうとセル画にしか愛着も信頼もわかなかった。

多かれ少なかれ、現実とフィクションの歪んだ狭間の中で、誰しもがオタクにならざるを得なかったんだと思う。家庭も学校も重すぎる。キツすぎる。あるいは、職場が厳しすぎる。そうした「実社会の欠陥」に対して、いったい誰が責任をとりましたかね? その責任を棚上げしたまま、フィクションに罪を着せるような大人たちを許せるわけないじゃん。ま、表現規制に対する怒りは、そんな辺りからも芽吹いている。

アニメや漫画やゲームじゃないよ、家庭や学校こそが青少年の育成に害悪を与えてきたんだろうがよ。いま苦しんでいる子たちがいるとしたら、まずは大人たちの責任追及から始めるべき。そして、フィクションという優れた逃げ場を、しっかりと守らねばならない

(赤字部分は廣田さんのブログ記事(http://mega80s.txt-nifty.com/meganikki/2014/06/0616-b23d.html)より一部転載)

家も、学校も、廣田さんにとっては安らげるものではなかったようです。そんな廣田さんにとっての救いになってくれたのがテレビで放映しているアニメでした。そして、自分がフィクションに救われたのと同じくフィクションによって救われている子供達のために、フィクションという優れた逃げ道をしっかりと守らねばならないというのが廣田さんのご主張ですね。

次に、廣田さんご本人から、特別にご自身の体験談を送っていただいたので紹介します。


体育の時間と『トゥルーラブストーリー2』

小学校・中学校・高校と、体育の時間が辛かった。とび箱は三段ぐらいしか飛べず、水泳では5メートルも泳げない。球技でチームを組むと「廣田がいるんじゃ勝てないな」と聞こえるように言われる。高校時代がもっとも酷く、野球部員のクラスメートから遊び半分に地面に叩きつけられた。教師も他の生徒も、見て見ぬふりだった。体育の時間が終わると、クラスの人気者が「廣田がどれほどダメだったか」女子生徒の前で笑いながら話した。誰にも気づかれないように注意しながら、僕は泣いた。
そんな僕でも、高校時代は好きな女の子がいて、下校時に「体育の時間が辛い」と打ち明けてみた。「体育の時間さえ我慢すればすむでしょう?」と、彼女は横を向いた。彼女は勉強もスポーツも得意だったから、分かってくれるはずがなかった。僕は、理解者を探すことをあきらめ、劣等感の強い無口な大人になった。
アルバイトで食いつないでいた30歳のころ、知り合いから恋愛シミュレーションゲームの存在を教えてもらった。数値を上げることより、生き生きとした女の子キャラとの会話を求めて、僕は何枚もの恋愛シミュレーションを買った。『トゥルーラブストーリー2』では、誰とも話さない転校生の女の子のはかなげな存在感に心を揺さぶられた。ただ、親しくなるのが大変難しいので、プレイヤーの幼馴染という設定の「七瀬かすみ」と仲良くすることにした。かすみはおっとりした性格で、あまり快活ではない。ゲーム中のイベントに球技大会があるのだが、その話題になると、かすみはつまらなそうに下を向いてしまう。「絶対に応援に来ないでほしい」などと言う。僕はハッとして、コントローラーを床に置いた。彼女はスポーツが苦手なのだ。そのことを恥じているのだ。浮かない表情のかすみの前で、僕は大声で泣いた。出来ることなら、あの歯をくいしばって耐えていた高校のころに、同じように体育のできないかすみと出会いたかった。



赤字部分が廣田さんに書いていただいた体験談です。子供の頃、体育ができないことでイジメられた体験が、廣田さんの心に傷として残りました。その心の傷を、恋愛シミュレーションゲームのヒロイン「七瀬かすみ」に受け止めてもらったという体験談です。廣田さんは、恋愛シミュレーションゲームの中で、自分の心の傷の理解者に出会うことができたのです。

恋愛シミュレーションゲームをプレイする若者を理解できない人は多いようです。ゲームの中の女の子と恋愛するなんて気持ち悪い。現実の女性から逃げている。そんな印象を持っている人も多いのではないでしょうか。

しかし、廣田さんは恋愛シミュレーションゲームによって過去のイジメ体験を受け止めてもらうことができたのです。本当なら高校時代に「七瀬かすみ」に出会えていたら、それが一番良かったのでしょう。それでも廣田さんは恋愛シミュレーションゲームに救われたのです。 



◎Twitterで寄せられた体験談、enさんの事例
Twitterで募集したところ、enさんという方から体験談を寄せていただきました。

これは自分事なので恐縮なのですが、僕は中学生の頃にイジメにあっていました。そんな僕が、何とか学校に行けていたのは水樹奈々さんの御かげなんです。あの頃に偶然見た「バジリスク~甲賀忍法帖~」というアニメのEDを聴いた時に『こんな素晴らしい曲を歌っているのはどんな人だろう?」と思い調べて見ると、なんと本編でヒロインを演じている声優さん!演技も出来て歌も上手いのかと感動したのを今でも憶えています。それからすぐに水樹さんのアルバムやシングルを買ったりレンタルしたり、壊れかけのラジオで彼女の番組を聴いたりもしました。嫌な気持ちでの通学も、彼女の歌を聴いて何とかやってましたね。他にも、ライブのためには生きなきゃならないと思って日々を過ごしたりとか。御かげで、友達居なくても何とか学生生活やり遂げましたよ(笑)今も何とか生きてますしね。

すみません。水樹奈々さん繋がりでもう一つだけ。水樹さん経由で「魔法少女リリカルなのは」を見て、それがまた大きかったです。ヒロインのフェイトがお母さんから虐待を受けている。それでも必死に頑張って、12話ではどん底からの復活。自分の境遇と重ねたりもしました。彼女はどんなに苦しんでも辛くても、精一杯頑張って見事に復活したじゃないか!しかも、たった9歳の少女が。それなのに、僕は情けない。もっと、彼女を見習って頑張らねば!と思ったものですよ。ですが、フェイトのように立派に強くはやれませんでしたが(苦笑)

(赤字部分はenさんから寄せていただいた体験談) 

『魔法少女リリカルなのは』は、「小学生の女の子が同い年の女の子と、攻撃魔法でバトルする」アニメです(と言い切ってしまうのは語弊があるのですが、詳しい説明が必要な方はWikipediaの『魔法少女リリカルなのは』の項をご参照下さい)。そういうアニメを中学生の男の子が楽しむというのは理解できないという方もいるのではないでしょうか。それでも、enさんはイジメという逆境を、『魔法少女リリカルなのは』に救われたのです。



◎Twitterで話題になった体験談、まついなつきさんがツイートした事例





たとえ大人には理解できないような内容の漫画だったとしても、そんな漫画に救われたひきこもりの少年がいたのです。大人には理解できないものでも、それを必要としている子供は確かにいたという事実は、重く受け止めなければなりません。



◎あるライトノベルがキッカケで不登校から立ち直ったという事例
Amazon.co.jp: 俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12) (電撃文庫)の tanakaさんのレビュー
http://www.amazon.co.jp/review/R17QH7FCJKXGVK

ネット書店であるAmazonに掲載された『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というライトノベルに対するユーザーレビューです。イジメの影響で不登校・自殺未遂にまで追い込まれた娘さんが、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のおかげで再び立ち上がったという内容です。

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という題名から予想がつくかもしれませんが、このライトノベルは兄と妹の恋愛という、いわば近親相姦的なテーマを扱っている作品です。そんなものは不健全だ。近親相姦的なものを子どもに見せるのは…、と考える方もいるかもしれません。

でも、 tanakaさんの娘さんは、そんな作品に救われたのです。一人の少女が、この作品によって不登校・自殺未遂から立ち上がることができた。その事実は、きちんと受け止めなければならないでしょう。




◎山田太郎参議院議員が語っていた事例
アニメ・漫画・ゲームの規制に反対して活発に活動している山田太郎参議院議員(みんなの党)の元には、多くの投書が届くそうです。その投書について、山田議員から気になる発言がありました。山田議員の発言を動画から紹介します。

これはちょっと極端かどうか分からないけど、死人が出ると思う。もしコミケがなくなったら自殺すると言っちゃってる人がいるから。脅しじゃなくて。引きこもってそれしか自分の世界がない子達がいる。この子達の悲鳴が投書で届いてる』(赤字部分が山田議員の発言。元動画はコチラ

コミケとは、コミックマーケット。東京ビックサイトで開かれる漫画・アニメ・ゲーム関係の一大イベントです。会場である東京ビックサイトの社長に、過去、漫画規制を推進したことがある元警察官僚の竹花豊氏が就任した時、もしかしたらコミケが開催できなくなるのではないか、という憶測が流れました。

結局、竹花氏の社長就任後も、コミケは開催され続けています。しかし、もし仮にコミケが開催できなくなったら、本当に自殺者が出てしまうのではないか、という危機感は真っ当なものだといえるでしょう。居場所が、逃げ場所がなくなってしまったら、絶望してそういう行動に出てしまう子も中にはいるのではないかと思うのです。


 

◎その他事例 
アニメ・漫画・ゲームに救われたという事例を探すと、たくさんの体験談がでてきます。紹介しきれなかったものの中から2つほど、URLと簡単な説明のみ、掲載しておきます。また、ネット上を検索していると、アニメ・漫画・ゲームに救われたという個人ブログの中の記述も見つかりますが、そういうものについて晒しあげるのもどうかと思いますので、紹介はいたしません。

『涼宮ハルヒの憂鬱』というライトノベルがキッカケでイジメによる不登校から立ち直った事例
http://yusaani.com/special/2014/04/30/190/

イジメにあっていたとき『機動戦士ガンダムSEED』に救われたという事例
http://www.c-place.ne.jp/hiyaku/2011/08.html



◎終わりに
アニメ・漫画・ゲームは、暴力的表現、性的表現等、人によっては不健全だと非難するような内容を含むものも多いと言えます。そして、大人には理解できないような表現も、そこにはあります。そんなものを子供に見せるのはどうなのか、と思う方もいるかもしれません。しかし、この事例集の中で紹介した作品群の中にもそういう表現が存在することは、記事の中で指摘したとおりです。

アニメ・漫画・ゲームを規制することによって、救われる子供達がいるかどうかは分かりません。少なくとも、科学的な実証はないはずです。しかし、アニメ・漫画・ゲームを規制することによって苦しむ子供達は絶対に出てきます。イジメ・不登校・劣悪な家庭環境などの逆境を、アニメ・漫画・ゲームによってなんとか生き延びていた子供達は、アニメ・漫画・ゲームの規制によって貴重な逃げ場を失うことになるのです。もしかしたら自殺者が出てしまうかもしれない。そういう危機感すら、そこにはあります。

漫画・アニメ・ゲームの規制は、アニメ・漫画・ゲームによって救われている子供達を犠牲にしてまで進めるべきものなのでしょうか? 私にはそうは思えません。 「子供達を守るために」、私はアニメ・漫画・ゲームの規制に反対します。


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【2014/10/27追記:同種の事例を随時追加していきます】

◎「アニメがあったから、道を踏み外さなかった」“世界最強のオタク”を目指す格闘家・岡倫之の壮絶な半生 - 日刊サイゾー
http://www.cyzo.com/2014/05/post_17006.html


◎漫画評論家として有名な伊藤剛先生(東京工芸大学マンガ学科准教授)が、中学時代いじめを受けていた人から直接聞いた話




◎海外オタク、ラユンさんの事例